1月10日午後、「原発事故子ども・被災者支援法」推進自治体議員連盟、福島原発震災情報連絡センターによる原発事故被災者への支援施策等の改善を求める政府交渉が行われ、自治体議員はじめ被災者団体の代表などが出席しました。
原発事故被災者への支援施策等の改善を求め、復興庁に要請書を提出した上で、「避難者の実態調査と支援策について」「住宅の確保について」「医療・福祉支援について」「原発事故の損害賠償について」「『福島県の子供たちを対象とする自然体験・交流活動支援事業』等について」「 財源確保について」「リアルタイム線量測定システムについて」「被災者支援と事故収束、廃炉について」、復興庁、厚生労働省、国土交通省、環境省、経済産業省、文部科学省、原子力規制庁など各省庁と2時間にわたり意見交換を行いました。国会議連からは川田龍平参議院議員が出席しました。
原発事故被災者への支援施策等の改善を求める要請書
2025年1月10日
内閣総理大臣 石破茂 様
復興大臣 伊藤忠彦 様
国土交通大臣 中野洋昌 様
総務大臣 村上誠一郎 様
文部科学大臣 阿部俊子 様
厚生労働大臣 福岡資麿 様
経済産業大臣 武藤容治 様
環境大臣 浅尾慶一郎 様
原子力規制委員長 山中伸介 様
「原発事故子ども・被災者支援法」推進自治体議員連盟
福島原発震災情報連絡センター
福島原発事故から13年が経過した今も、政府の原子力緊急事態宣言は解除されていません。政府は帰還政策を押し進め、避難指示解除準備区域及び居住制限区域の避難指示をすべて解除し、現在は7市町村の一部を帰還困難区域と設定しています。しかるに政府は、区域外避難者の住宅支援を打ち切り、ふるさとを追われた家族や地域を分断し、避難者の生活困窮や留まった者の長期低線量被曝を強いています。
翻って、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(以下「法」)は、「(被災者の)支援対象地域からの移動の支援」「移動先における住宅の確保」(法第九条)、「定期的な健康診断」「健康への影響に関する調査」(法第十三条第2項)、「子ども及び妊婦」や「その他被災者」への「医療の提供」や「費用負担の減免」(法第十三条第3項)等の施策を講ずることを定めています。しかし、当初から、政府の施策は法の趣旨の実現に遠く、被害の回復・復興の将来像も不明確なまま、具体的な支援も不十分な状況が続いています。
私たちは、原発事故被災者への支援施策等の改善を求め、下記の通り、理由を添えて要請します。
記
1.避難者の実態調査と支援策について
○避難者の実数や生活実態調査をあらためて行ない、当事者に加え、避難先自治体や社会福祉協議会、支援団体などと連携し、避難者のニーズを的確に把握するとともに、適切かつきめ細かい支援策を充実させること。
○失業状態の継続、非正規就労による生活費の不足など、経済的困難に陥っている避難者が多いことから、従前の就労支援策の問題点を検証の上、避難先において避難者の従前のキャリアを活かせる就労機会の提供等の実効的な就労支援策を実施すること。
(理由)
原発事故から長期間を経て、避難指定区域内外を問わず、また避難したかしないかに関わらず、被災者のニーズは多様化し、孤立や分断も進み、特に高齢となった被災者の健康や暮らしの課題も深刻化している。
2.住宅の確保について
○福島県・東京都などに対し、避難者への公営住宅明け渡し訴訟などを取りやめるよう促すこと。
○法の趣旨に基づく抜本的・継続的な住宅支援制度を再構築すること。避難者の住まいに関する課題を把握し、民間住宅への家賃補助、公営住宅への入居要件の緩和を進め、そのための自治体の積極的な対応も促すこと。
(理由)
国連人権理事会普遍的・定期的レビュー(UPR)第3回対日審査においても、「福島第一原発事故の全ての被災者に国内避難民に関する指導原則を適用すること」が勧告されているにもかかわらず、原発事故避難者への住宅支援策は縮小・廃止されている。福島県による住宅支援策も、激変緩和措置も含めて2017年3月に打ち切られ、福島県が国家公務員宿舎の入居者に家賃2倍相当の損害金の請求を行い提訴した。経済的理由などで退去できなかった区域外避難者も、毎月送られてくる「2倍家賃」の請求書、期限付き立ち退き通告書、親族宅への圧力など、福島県の執拗な攻撃に耐えかね、東京地裁に精神的損害賠償を求めて提訴したが、福島県は直ちに反訴し、福島県以外にも東京都から明け渡し訴訟が起こされている。
避難者の「住まいの権利」を争う裁判は単なる賃貸借契約をめぐる問題ではない。生存権に関わる住まいの保障の打ち切りは撤回すべきである。
3.原発事故の損害賠償について
〇国及び原賠審は、東京電力に対して、中間指針第五次追補による追加賠償対象の約148万人について、2024年9月現在、約19万人の支払いが完了していないことから、賠償請求未了者への対応を含めて、速やかに支払いを完了するよう指導すること。また、追加賠償額の地域間格差の是正について、損害の実態の広範かつ十分な調査と評価を行い、公正な被害者救済に取り組むこと。
(理由)
原発事故の損害賠償は、一昨年、損害賠償請求集団訴訟7件について、東京電力の損害賠償責任を認めた各控訴審判決が最高裁において確定したため、国の原子力損害賠償紛争審査会が中間指針第五次追補を決定した。東京電力は、追加対象の被害者は少なくとも約148万人、総額約3900億円とし、2024年9月12日付けの「中間指針第五次追補等を踏まえた追加賠償の対応状況」によれば、追加賠償の請求受付人数約131万人、支払い完了人数約129万人の実績とされる。この追加賠償額は、対象区域設定や金額の基準による地域差によって被害者間の賠償格差が広がり、地域分断を生みだしており、被害者から不満の声がでている。
4.「福島県の子供たちを対象とする自然体験・交流活動支援事業」等について
〇保養活動(リフレッシュキャンプ)について、またその役割について、どのように評価しているか明らかにすること。
〇「自然体験・交流活動補助事業」の実態について、2023年度までの決算額・利用団体数(県外県内別)・利用人数等を明らかにすること。
〇「ふくしまキッズパワーアップ事業」について、県外での活動を許可していない理由について明らかにすること。
〇福島県内の親子(原発事故後に生まれた子どもたちも含め)が保養プログラムに参加している実態、また受け入れている団体の実態を把握しているか明らかにすること。
〇原発立地自治体の学校教育と生活環境現場において、未だ放射線量が高い地域で活動することへの注意喚起はどのようにしているか、及び空間線量と土壌中の放射能についてどのように計測しているか明らかにすること。
5.リアルタイム線量測定システムについて
〇特に子どもが活動する保育所や学校、公園などに設置されたものについては、廃炉作業完了までの予算措置を確実に講ずること。
(理由)
本システムを撤去するという原子力規制委員会の方針は一時棚上げされているが、引き続き継続配置が必要である。
6.医療・福祉支援について
○ 見直し・廃止の方針を撤回し、医療費等の減免措置は削減前の状態に戻すこと。
また、避難先・移転先でも支援を受ける権利を確保するため、各自治体の確実な対応を図るよう、周知すること。
○ 全ての原発事故被害者に「健康手帳」を交付し、国の責任で医療・福祉支援を再構
築・拡充すること。
(理由)
政府はすでに原子力災害被災地域における医療・介護保険料等の減免措置を見直し、
2023年から段階的に減免措置を縮小している。生活再建途上にある被害者にとって、医療費・介護負担等の減免措置は文字通り命綱であり、原発事故被害者に対する国の最低限の責務であり、被害者の権利である。
なお、2023年の交渉でも指摘した通り、知事会もこの問題について言及しており、2025年度要望においても「避難指示区域等対象地域における減免措置については、2023年度から見直しが開始されたが、対象となる住民の不安や疑問に丁寧に対応するとともに、今後、見直しが検討される帰還困難区域に居住していた住民の保険料等の減免や、市町村の保険事務等の支援について、引き続き、市町村の意向をしっかり踏まえた対応を行うこと」としている。
7.財源確保について
〇上記事項を確実に実施・継続するため、十分な予算を確保すること。
8.被災者支援と事故収束、廃炉について
〇「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策」を確実に推進するため、事故の収束と廃炉に向けて、「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」を実態に即して見直すこと。また、事故の収束と廃炉に向けて、政府として責任ある組織の整備を図ること。
(理由)
福島原発事故から13年が経過した今も、政府の原子力緊急事態宣言は未だ解除されておらず、法の趣旨の実現には遠く、被害の回復・復興の将来像も不明確で、具体的な支援も不十分な状況が続いている。
「中長期ロードマップ」では、燃料デブリの試験的取り出しの着手をもって、「第3期」という本格的な廃炉作業への移行としている。試験的取り出しも作業ミスやカメラの不具合などで作業は中断していたが、11/7に完了した。
国が前面に立ち、福島第一原発の廃炉を適正かつ着実に進めることができるよう、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が発足したが、いつ頃、燃料デブリの本格的な取り出し作業に着手できるのか全く不透明で、日本原子力学会の専門家は、本格的な取り出し着手は早くても2050年頃としている。
中長期ロードマップの見直しは必須であり、膨大な放射性廃棄物の処理や財源の問題を含めて、東京電力任せで廃炉は完遂できない。事故の収束と廃炉に向け、国として官民あげた総合的な責任ある組織体制を作る必要性は高まっている。
以上