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世界核被害者フォーラム 広島宣言「世界核被害者の権利宣言 2025」

 10月5日、6日の2日間に渡り、広島・長崎被爆80周年「核のない未来を!世界核被害者フォーラム」が広島市で開かれました。
 10年ぶりで開かれた「世界核被害者フォーラム」は、アメリカやオーストラリアなど11カ国の核被害者や専門家が意見を交わし、最後に核被害者の権利と補償の確立に向けて、広島宣言「世界核被害者の権利宣言 2025」を採択しました。
 世界核被害者の権利宣言 2025 は「核被害者の権利と補償確立に向けた、核被害者の人権宣言」「核の加害者の責任を厳しく問い、核被害者の権利・補償の確立と核廃絶をめざす運動の指針」とされ、「核被害者の権利と補償を確立するため、多分野にわたる具体的政策を提言し、その実現に向けて、国際社会及び各国政府、議会への働きかけに活用する」「核兵器や原発、ウランや核廃棄物、核燃料サイクルやそれを維持する政治的抑圧などの影響を受けた多様な核被災地やの核被害者の声を反映させ、核被害者自身及び核被害者と連帯する様々な人々との協働で作成し確認」したものです。
 以下に、全文を紹介します。

広島宣言
世界核被害者の権利宣言 2025
作業部会有志(五十音別)

 ● 安在尚人 NPO 法人世界ヒバクシャ展事務局長
 ● 井上まり 世界核被害者フォーラム共同代表、核の無い世界のためのマンハッタン・プロジェクト共同創始者、ニューヨーク州弁護士
 ● 海渡雄一 弁護士、脱原発弁護団全国連絡会 共同代表
 ● 川野ゆきよ 世界核被害者フォーラム事務局次長、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)運営委員
 ● 清水浩 韓国の原爆被害者を救援する市民の会広島支部
 ● 藤元康之 世界核被害者フォーラム事務局長・核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)事務局長
 ● 振津かつみ チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西・共同代表、医師
 ● 森瀧春子 世界核被害者フォーラム共同代表、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)共同代表
 ● 森松明希子 東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream(サンドリ)代表、原発賠償関西訴訟原告団代表
 ● 籔井和夫 広島市在住ジャーナリスト、日本平和学会

世界核被害者フォーラム 広島宣言

2025 年 10 月 6 日

(前文)
1. われわれは、ウクライナ戦争、ガザでのジェノサイド、中東危機の中で、核兵器使用や原発などの核施設への攻撃の威嚇が地域戦争の手段とされ、米英政府が劣化ウラン弾をウクライナに供与したりするなど、いま世界は核戦争や更なる核汚染への危機が高まっていることを懸念する。戦争がなくならない限り、核兵器の使用の衝動と核戦争の危険性は高まるばかりである。われわれは、今こそ、核被害者の声を世界に届けるときであると考え、アメリカによる原爆投下 80 周年に当たる 2025 年の 10 月 5 日から 6 日に、ここ広島に集った。

2. われわれは、核被害者=ヒバクシャを以下のように定義する。すなわち、原爆の被爆者、核実験の被害者、核物質を使った人体実験の被害者、核の軍事利用と民生利用の別を問わず、ウランの採掘・精錬・濃縮の活動、核の開発・利用・廃棄などの核兵器関連活動と原発・核燃料サイクルの全過程における労働と環境放射能汚染によるヒバクシャ、原発事故被害者、放射性廃棄物の劣化ウランを用いた兵器によるヒバクシャなど、の放射線被曝と放射能汚染による被害者すべてを含む。核時代を終わらせない限り、人類はいつでも核被害者=ヒバクシャになりうることを認識して、核と人類は共存できないことをあらためて確認した。
3. われわれは、ウラン採掘や精錬、核実験、核廃棄物の投棄が、いまも続く植民地支配、差別抑圧の下で行われてきたことを確認した。原発・核燃料サイクル施設の地方への設置と、原発下請け労働者への被ばくの押し付けなど、不平等・差別・抑圧・搾取の社会構造の下に核利用が成り立っていることを確認した。とりわけ、世界中で先住民に対して、先住民を政策決定過程から除外し、先住民族の権利-先祖代々の土地と関連する諸権利を含む-を侵害し、自らの権利や集団の権利を主張すると弾圧し、先住民にとってはジェノサイドになりうる被曝という暴力を強要するという「核植民地主義」の歴史と現状を確認した。環境を放射能で汚染され、人間生活の基盤をも奪われた核被害者を日々増やし続けていることを確認した。
4. われわれは、核被害は、核被害者の健康のみならず、被害者と家族の生活をも脅かし、コミュニティ全体にも及び、社会的、文化的な被害をももたらしていることを確認した。
5. われわれは、核被害が次世代以降の健康にも被害を及ぼす可能性があることを認識した。また、社会的、文化的な被害は、次世代以降にも及んでいることを確認した。そして、核利用によって、人類の歴史よりも長い寿命の核種を含む核廃棄物が「負の遺産」として将来世代に残されてしまったことを確認した。
6. われわれは、核被害が、人類のみならず、環境の放射能汚染によって、人を含む生態系全体に被害を及ぼす可能性を確認した。
7. われわれは、2013 年にオスロ、2014 年にナジャリットとウィーンで開かれた「核兵器の非人道的影響に関する国際会議」の結果として、核兵器爆発が環境、気候、人間の健康、福祉、社会に破滅的な影響をもたらし人類の生存さえ脅かし、対処が不可能であるという認識が国際的に共有されたことを確認した。
8. われわれは、核加害者を以下のように定義する。核武装国をはじめ、核の利用により、人間の生存の基盤を破壊し、生き物すべての生存を侵害する原因を生み出した者、軍産官学複合体やその構成員、およびこれを支援する国家、国際原子力機関(IAEA)や国連科学委員会(UNSCEAR)などの国連組織と、原子力推進の立場の科学者による国際放射線防護委員会(ICRP)などのこれまで放射線被曝による被害について過小評価して原発事故などの本当の影響を隠蔽してきた機関、核エネルギー政策を推進した国家および放射能汚染を引き起こした事業者と原発など核施設のメーカーの株主、債権者を含む。われわれは、核加害者が被害者への賠償責任を含めて、加害についての責任を負うことを強く要求する。また、原発輸出やウラン輸入を含む原子力関連産業の推奨・支援・投資は、人権侵害と環境破壊をもたらす危険があることを認識するよう主張する。
9. われわれは、核加害者が核(原子力)産業の利益を擁護するために、放射線被ばくのリスクを過小評価してきた長い歴史に対し、強く批判する。われわれは、核被害者や核被災地および、次世代を含む全ての人々と地球環境を守る立場に寄り添った、放射線リスク評価の採用を求める。次世代への影響については、動物実験などの基礎研究の結果から、人間にも「遺伝的影響は否定できない」「危険性がある」ことは明らかである。また、これ以下なら人体に影響はないという放射線被ばくの「しきい値」が存在せず、いかなる線量であれ後障害の健康リスクがあることを認識した。このことは、例えば、世界の核施設労働者の疫学調査「INWORKS」などで、ますます明らかになっている。内部被ばくは被ばく線量推定が難しいことなどのため、加害者は被ばく健康影響を認めず、無視し、切り捨てようとしているこ
とを認識した。
10. われわれは、2021 年 1 月に核兵器禁止条約が発効し、核兵器の国際法での違法性と、締約国による核被害者の救済と環境回復の義務を定めたことを歓迎する。核兵器禁止条約は、核戦争による非人道性の極みを訴え闘ってきた原爆被爆者、核実験被害者たちの体験と、それを共有する運動の上に成立した。しかし、世界各地の核被害者の救済なくして核廃絶はないという被爆者らの訴えに反し、核被害者を「核兵器の使用もしくは実験」によって
影響を受けた者だけであるかのように記述されているため、ウランの採掘、精錬、濃縮から核廃棄物までを含む核兵器関連の全てのヒバクシャ、とりわけ先住民の被害が切り捨てられようとしていることを憂慮する。また、原子力の「平和利用」を奪い得ない権利と定めていることは容認できない。そして、加害者が明記されず、加害責任が明確にされていないことなどの致命的な問題も確認した。このような問題を核被害者とともに、世界の人々の力で正し、核兵器禁止と核被害者支援の世界の運動をより強めていくことが重要だと主張する。

11. われわれは、2024 年 3 月に国際原子力機関(IAEA)主導の第 1 回原子力サミットが開催され、非原発保有国を含む 32 カ国が原発推進に向けて協力することを宣言したこと、さらに、世界中の原子力ムラが気候変動枠組条約締約国会議において原子力は気候危機の解決策であると喧伝していること、また、核武装国であるアメリカや核実験被害国であるカザフスタンなどでウラン採掘などが活発になっていること、またさらに、ウラン濃縮を含む原子力技術を希求するグローバルサウスの国が増えていることを憂慮する。
われわれは、原子炉からの使用済み核燃料に、核兵器に転用可能なプルトニウムなどの核物質が含まれており、テロや盗難、核拡散のリスクがあること、さらに原子力技術の軍事転用の可能性があることも懸念する。
12. われわれは、2023 年 8 月 24 日から開始された東京電力の福島第一原子力発電所からの放射性核種を含む汚染水(放射性廃水)の太平洋への放出が、少なくとも次の 30 年も続くことについて、予防原則に基づき、即時の放出停止を求める。放射性廃水の海洋放出は、太平洋を共有する全ての人々、とりわけ日本の漁業者及び太平洋諸島に暮らす多くの先住民の健康・生活・文化への権利を侵害するものである。
13. われわれは、東京原爆訴訟判決(1963 年 12 月)が米軍の原爆投下は国際法違反と認定したこと、国際司法裁判所が「厳格かつ実効的な国際管理のもとで、全面的な核軍縮に向けた交渉を誠実に行い、その交渉を完結させる義務がある」と勧告的意見(1996 年 7 月)を表明したことを認識している。この勧告的意見に基づき、2014 年 4 月、核実験の被害を受けたマーシャル諸島の人々の政府が、国際司法裁判所に9つの核武装国に対して提訴した
が、2016 年 10 月に訴えが退けられたことは非常に遺憾である。その後も、マーシャル諸島の人々は国連機関で核実験の負の遺産について声を上げ続け、その結果、マーシャル諸島の核実験の影響に関する 51/35 決議案が国連人権理事会で採択され(2022 年 10 月)、それに基づいた検証をもとに、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が国連人権理事会への報告書で、アメリカ政府に、過去、現在、将来にわたる人権侵害に対する正式の謝罪と賠償を促したこと、また、関連記録の全面公開を求め、核の負の遺産による人権侵害を防ぐために、全ての汚染地域のモニタリングと環境回復など、マーシャル政府が「核の正義」に基づく対策を行えるように支援することを求めたことを歓迎する。
14. 朝鮮半島出身の原爆被爆者には、朝鮮が日本の植民地であったことによって故国では生活していけなくなったため日本に渡り、あるいは強制労働者として日本に連行され、広島や長崎で原爆被害に遭ったという背景があったことを忘れてはならない。1967 年に発足した韓国原爆被害者協会が、原爆を投下したアメリカ政府の加害責任、原爆製造関与のアメリカの企業の加害責任、日本政府の加害責任、自国の被爆者を援護すべき責任を放置した韓国政府の責任を追及してきたことを強く支持する。われわれはさらに、広島・長崎で被爆した後、朝鮮半島の北側(現在の朝鮮民主主義人民共和国)に帰国した人たちに対して、日本政府が被爆者援護を放置し、無援護のままの状況にある課題が、同国との国交回復も含め、一刻も早く解決されることを求める。
15. われわれは、2026 年 11 月にニューヨーク市で、韓国の被爆者と支援者が国際民衆法廷を開催し、アメリカ政府に対して原爆投下の国際法上の違法性を問い、加害責任と謝罪を追求する行動を、強く支持する。
16. われわれは、日本で核被災地の人々が核被害に対する補償・保障・保証を求めて、被爆体験者訴訟、黒い雨原爆被害追加訴訟、ビキニ被ばく船員訴訟、被爆 2 世訴訟、ALPS 処理汚染水差止訴訟、311 子ども甲状腺がん裁判、原発事故被害者・避難者・原発被ばく労働者訴訟などの、国や核加害者を裁判に訴える行動に連帯する。われわれは、また、同様の行動を求めている世界の核被災地の人々と連帯する。
17. われわれは、第 1 回核被害者世界大会が核保有国と原子力産業の犯罪責任を追及し(1987 年ニューヨーク決議)、また軍産複合体に損害補償の責任を負わせるとしたこと(1992 年ベルリン決議)、先住民らが参加した世界ウラン公聴会が、諸政府、その責任ある部署、国際企業やその他の企業、組織、共同体、個人に対し、核開発による身体的、文化的ジェノサイドから守るための先住民固有の自己決定権を認識し、被害の責任を負うことを約束して被害者に対して補償を行うことを求めたこと(1992 年ザルツブルグ宣言)を想起する。さらに、われわれは、「原爆投下を裁く国際民衆法廷・広島」がトルーマンを含む被告たち 15 名全員の有罪を確定したこと(2007 年 7月)を確認する。
18. われわれは、加害者が責任を認めて謝罪し、過去の被害への補償をし、核被害者と核被災地への社会的保障を提供し、これ以上核被害を地球上に起こさないことを保証することを求める。また、これまでの加害行為を反省することを強く要求する。
19. われわれは、核汚染の被害を受けた先住民の諸権利を守るために、先住民の自己決定権や、環境や発展に関する諸権利などを定めた「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を各国政府が遵守することを求める。
20. 核被害こそが最大の環境破壊であることをわれわれは認識した。1998 年に採択したオーフス条約(環境に関する、情報へのアクセス、意思決定における市民参画、司法へのアクセスに関する条約)に留意し、クリーンで健康な環境へのアクセス(利用可能にすること)、情報へのアクセス、意思決定における市民参画、司法へのアクセスは普遍的人権であることを確認する。われわれは、2021 年 10 月に国連人権理事会がクリーンで健康的かつ持続可能な環境をもつことが普遍的人権であることを認識したこと、また、翌年の 2022 年 7 月に国連総会が、クリーンで健康な環境へのアクセスは普遍的人権であると宣言する決議を採択し、日本や、アメリカなどの核武装国を含む 161 の国と地域が支持したことを歓迎する。この決議は、全ての人にとって健康な環境を守るための取り組みを拡大するよう、各国政府、機関や組織、そして企業に求めている。われわれは政府や国際組織・国内組織、企業
に対し、全ての人にとって健康な環境を約束するよう要求する。
21. われわれは、日本国憲法前文の「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」を想起する。
22. 原発・核燃料サイクルを「核の平和利用」と言うのは欺瞞である。1953 年、アメリカのアイゼンハワー大統領は、核兵器開発をより一層推し進め、軍事用原子炉を発電に転用した原発による経済的利潤の追及(核の民生利用)でも国際的優位を目指し、国連での「平和のための核(アトムズ・フォー・ピース)」宣言を行った。われわれは、「核の軍事利用」と「核の民生利用」が原子力産業を通じて密接につながっていること、さらに劣化ウランを使用した放射能兵器など核利用の全段階で大量の核被害者を生み出してきたことを認識した。われわれは、ウラン採掘から核廃棄物管理に至るまで、核燃料の製造や原子力発電、再処理を含め、「軍事」「民生」を問わず、医療用を除き、全ての核利用に関連する全ての過程を直ちに中止し、廃棄することを求める。
23. われわれは、劣化ウランを利用した兵器の製造・保有・使用を禁止することを求める。
24. われわれは、核の利用がある限り放射能災害の発生を防ぐことはできず、増え続ける核廃棄物の処理・処分の見通しは全く立たないうえ、核汚染は長期にわたり、不可逆的なものであり、環境の原状回復は不可能ということから、人類は核エネルギーを使ってはならないと認識した。
25. われわれは、今回の世界核被害者フォーラムを契機として、核被害者の情報を共有し、芸術などを含むさまざまな方法やメディアなどの媒体で発信し、共に連帯して闘っていくことを確認した。
26. われわれは、2015 年の世界核被害者フォーラムとこの 2025 年の世界核被害者フォーラムの成果をもとに、以下の世界核被害者の権利宣言 2025を世界に発信するため、広島宣言を採択する。

世界核被害者の権利宣言 2025

1.この宣言の目的
1)世界核被害者の権利宣言 2025 は、核被害者の権利と補償確立に向けた、核被害者の人権宣言である。
2)核の加害者の責任を厳しく問い、核被害者の権利・補償の確立と核廃絶をめざす運動の指針を示す。
3)核被害者の権利と補償を確立するため、多分野にわたる具体的政策を提言し、その実現に向けて、国際社会及び各国政府、議会への働きかけに活用する。
4)核兵器や原発、ウランや核廃棄物、核燃料サイクルやそれを維持する政治的抑圧などの影響を受けた多様な核被災地やの核被害者の声を反映させ、核被害者自身及び核被害者と連帯する様々な人々との協働で作成し確認する。

2. 核被害者の定義
原爆の被爆者、核実験の被害者、核物質を使った人体実験の被害者、核の軍事利用と民生利用の別を問わず、ウランの採掘・精錬・濃縮の活動、核の開発・利用・廃棄などの核兵器関連活動と原発・核燃料サイクルの全過程における労働と環境放射能汚染によるヒバクシャ、原発事故被害者、放射性廃棄物の劣化ウランを用いた兵器によるヒバクシャなど、の放射線被曝と放射能汚染による被害者すべてを含む。

3. 基本的権利
核時代を終わらせない限り人類はいつでも核被害者=ヒバクシャになりうる。核と人類は共存できないことを確認する。
現在と将来の核被害を防ぐために全ての人々は以下のことを求める権利を有する。
1 自然放射線および合意の上での医療用放射線以外の放射線被曝を受けないこと。
2 被曝労働を強制しないこと。被曝労働が回避できない場合には、最小化すること。
3 医療被曝を必要最小限に留めること。
4 放射線被ばくの危険性について、意図的な誤った情報ではなく正確な情報を学校教育、社会教育を通して提供すること。情報には以下のことを含めるべきである。放射線被ばくは、どんなに低い線量であっても線量に応じた健康リスクがあること。特に子どもや胎児は大人に比べて放射線被ばくへの感受性が桁違いに高いこと。また、生殖健康(リプロダクティブ・ヘルス)において、現在あるいは将来、妊娠、出産、新生児ケアに重要な役割を果たす母体を担う人に対する放射線被ばくの影響には、特別の配慮が必要であること。従って、現在、原子力産業が採用している「成人男性モデル」のみによる人体への被ばく健康影響の基準は、子どもや女性への健康影響を考慮していない点においても決定的に誤っていること。
5 事故時はもちろん、平常時においても、核施設の環境リスク評価が被ばく防護策や治療法に関する情報と共に透明性をもって公開されること。
6 関連する政策の意思決定プロセス(過程)に参加すること。利害関係者(ステークホルダー)と権利者の意思決定過程への参加は、関連する国の計画や政策を策定する際に、参加しやすく、包括的で、差別的ではなく、透明性のあるものでなければならない。
インフォームド・コンセント(利害関係者や権利者の十分な情報を得た上での合意)は、利害関係者が関連する国や地方の政策に関わるリスクの性質と程度を理解するために必要な知識や手段、通知とパブリックコメント(公開の意見募集)の機会を提供しなければならない。
政策の意思決定に同意するかについては、核正義への政策及び実践を保障するための監視とアドボカシー(権利擁護)を必要とし、その同意は強要してはならない。
核正義とは、核被害に関する情報公開、核被害者として認めること、加害者による謝罪、加害責任の追及、核被害者の救済と補償、汚染地域の環境修復、再発防止、核廃絶を含む。
7 被ばくした個人や地域の被害に関する生きた経験と証言を正当に評価し、その調査結果を公的な文献や、被ばくと救済に関する政策に取り入れること。
8 予防原則と人道的観点に基づく関連政策を策定すること。
9 核施設から生成される高レベル放射性廃棄物を保管する最終処分場がないため、核施設の建築、稼働または再稼働を拒否すること。
10 将来世代にこれ以上の核被害をもたらさないために、高レベル放射性廃棄物、除染土、汚染水などの放射性廃棄物の処理は、現世代の責任において行い、将来世代に責任を負わせないこと。
4. 核被害者の健康と生活の保障のため
a. 医療を受ける権利
現在、疾病を有しているか否かに関わらず、「被ばくの事実」(被ばく線量に関わらず)と「被ばくによる健康リスクの可能性」があれば、核被害者として健康を守り、医療を受けることのできる権利。
これは「特定の放射線の曝露態様の下にあったこと、そしてその曝露態様が放射能により健康被害が生ずることを否定することができないものであったことを立証することで足りる(2021 年 7 月 14 日広島高等裁判所「黒い雨」訴訟控訴審判決 151 頁が被爆者援護法 1条 3 号の解釈として示した規範)」を基にする基準である。
医療を受ける前に、十分に情報を提供し、同意が自由にできるよう保障すること。
治療の過程で研究が行われる場合は、被験者を保護するための倫理規定及び研究基準を遵守すること。
b. 救済をうける権利
c. 生命と健康に対する権利
d. 関連する政策の決定プロセスに参加する権利を保障すること。
e. 核被害者の権利が侵害された場合に、国内および国際レベルの双方で、効果的な司法もしくはその他の適切な支援を受ける権利

5. 先住民族の権利
a. 先住⺠への差別・抑圧、植⺠地支配をなくす闘いへの支持と、先住⺠族の生存権と自己決定権の尊重が不可分であるとの視点に立った要求を求めるために、「先住民族の権利に関する国連宣言」は核被害者の権利の確立における最低基準である。

6. 労働者被曝(職業被曝)
a. 労災補償、放射線防護・健康管理、被曝リスクに関する情報を受ける権利。
すでに生じている被害の労災補償、日常の被曝管理及び被曝線量を最小限にする放射線防護・健康管理、放射線防護や被曝リスクに関する教育・研修を受ける権利。
b. 被曝線量の測定と定期的な健康診断を受ける権利。
原則的には被曝線量を測定・管理されながら労働するという被曝労働者の特殊な立場での権利の言及が必要である。放射線被曝を伴なう労働について、日々の被曝線量を完全に把握し、その結果と健康に対する影響について、十分な情報と知識を与えられる。健康に対する影響を調査するために、労働者は、定期的な健康診断を受ける。
c. 被曝管理と長期的な健康管理を受ける権利。
廃炉や廃棄物管理、「除染」や輸送などの処分・管理に伴う労働者の被曝の影響と健康管理の必要性は長期にわたって残るため、離職後も生涯にわたって健康管理と医療を受ける権利を有する。その権利を証明する公的機関が発行した証明書を所持する権利を有する。
d. 危険な放射線被曝を伴う労働の危険性に関する情報を知る権利と被曝労働を拒否する権利
危険な放射線被曝を伴なう労働について、事前にその危険性について十分な情報と知識を与えられる権利を有する。労働者が「許容」被曝線量を受けた場合の死亡率や障害発生率などのリスクが事前に公表されなければならない。当該労働に従事するか否かは、その都度、労働者の自由な意思決定に委ねられる。
e. 被曝労働を拒否する権利と差別されない権利
被曝労働を拒否した場合と被ばく限度に達した場合に、当事者の要求をもとに「代替え職場」での仕事を保障すること。労働を拒否した場合でも、労動契約上、何らの不利益を受けない。軍人か民間人か、元請けか下請けかなどの雇用形態にかかわらず、差別されない権利を有する。原発労働において、重層下請け構造のような被曝を押し付ける構造は許されず、これを無くしていかなければならない。無くすまでの間においても、元請企業は、末端の労働者の権利も補償することに誠実に取り組まなければならない。
f. 関連する政策の決定プロセスに参加する権利を保障すること。
g. 権利を主張した場合の弾圧、差別、解雇、報復などの不当な罰則の対象にならないことを保障すること。
h. 事業者は、被曝事故があった場合、これを正確に記録し、保管しなければならない。
i. 事業者は、被曝記録の作成及び管理の責任者を明確にし、ヒバクシャの求めに応じ、何時でもこれを開示しなければならない。
j. 以上の諸項目に違反して、労働者を働かせた使用者は、民事上の損害賠償責任を負うとともに、行政罰、刑事罰を科せられる。

7. 住民被ばく(一般公衆の被ばく。ウラン関連産業及び核施設の周辺住民、核実験風下住民、原発を含む核施設の重大事故時の周辺及び風下住民、等を含む。)放射線被ばくをした全ての人は以下の権利を有する。
a. 被ばく線量のいかんに関わらず、後記の医療被ばくを除く、追加被ばくを本人の承諾なしに受けた場合には、核被害者(ヒバクシャ)として認められるべきである。多くの場合、正確な個人被ばく線量の推定は困難であるので、核被害地域に居たり、入域したり、放射性降下物(フォールアウト)を受けたという状況証拠があれば核被害者として認められるべきである。
b. ヒバクシャは、自らの被ばくの推定線量を知る権利を有する。
c. ヒバクシャは、自らの被ばくが、自らの肉体的、遺伝的、心理的健康に与える影響について、正確な情報及び知識を得る権利を有する。
d. 関連する情報の公開を請求する権利。 放射線の安全に関する情報については、人と将来世代の生命と身体に影響を及ぼすため、生きる権利を行使することに影響するものであるから、国家や軍・核産業の利益をこれに優先させてはならず、全ての者が情報公開を請求することができる。
e. リスクに関する情報を得る権利。 一般人が許容被ばく線量を受けた場合の死亡率や障害発生率などのリスクが公表されなければならない。
f. 被ばくによる人の健康と環境への影響を評価する知識と経験を持つ独立した科学者及び専門家に助言を求める権利。
g. 将来の被ばくを最小限に抑えるためのリスク低減政策や放射線防護政策を求める権利。
h. 持続的な健康診断と最善の医療の提供を、放射線被ばくによって引き起こされる可能性のある全ての疾病について自己負担なく受ける権利の保障。疾病は、がん・白血病などの悪性疾患に限定されず、非ガン疾患も含まれる。
i. すべてのヒバクシャは、その放射線障害によってもたらされる各種の疾病を予防するための最良の措置を受ける権利を有する。
j. 放射線被ばくと疾病の関連の有無を証明する義務は加害者にある。加害者は被害者の疾病について「被ばくと関係ない」ことを証明できないならば補償すべきである。
k. 予防原則に基づき、いかなる低線量被ばくであっても線量に応じた晩発性障害のリスクがあることを認め、放射線被ばくと被害者の健康障害の間に因果関係が推定されるとの法原則を確立しなければならない。
l. 放射線被ばくによる晩発性障害、遺伝的障害については、時間の経過は賠償を求める権利に影響を及ぼさない。加害者は時効を主張してはならない。
m. 核施設(原発やウラン関連施設を含む)において環境中に大量の放射性物質が放出された事故が起こった場合、政府は以下を認めなければならない。

● 電離放射線を含む有害物質による被ばくから保護するための予防と防護対策を受ける権利、避難者・移住者のための避難の権利と、環境汚染による生業の喪失への補償、生活再建への支援、コミュニティ全体の崩壊、生活・文化全体への被害の補償を受ける権利。
● 家族は社会の自然かつ基本的な集団単位であり、社会と国家による保護を受ける権利がある。子ども・胎児・妊婦への特別な配慮が必要である。放射線被ばくのリスクを十分理解した上で、家族や親戚を救出するために行動する者を誰も止めてはならない。
● 汚染した地域の住⺠・帰還者のための被ばく防護のための施策や治療を受ける権利。それを保障するための食糧と飲料水、健康・医療、住居、教育・情報、保養の提供などを含
む。
n. 核被災地の住民の権利を保障するための、各国の「補償法」を確立し、強化すること。
o. 放射能汚染地域からの避難・移住の権利と、自発的に安全かつ尊厳をもって帰還または他の場所への定住の選択を確実に行使できることを保障すること。
p. 国連憲章および主要な国際文書および関連する地域、国内、地方の文書に基づく権利は、無国籍者または難民の人々を含む全ての人々が、核被害によって避難した場合に保障されなければならない。

• 核被災地から避難した国内避難民に対しては、指示による避難者・自主避難者を問わず、平等な条件で支援と補償を受ける権利と、国際基準である国内避難に関する指導原則を適用
しなければならない。これを国の法律または地方の条例,および行政における規則等に反映させることが推奨される。
• 避難民には帰還や別の土地への再定住,家族やコミュニティの再統合に関連する政策に基づく計画の決定プロセスに参加する権利が保障されるべきである。

8. 医療被曝について

a. 全ての人は医療被曝を必要最小限にとどめる権利を有する。
b. 被曝による健康リスクと患者の生命・健康を守るという患者にとっての利益を十分に説明した上で、患者自身が選択できる権利を有する。(インフォームドコンセント)
c. 患者と医療従事者の被曝被害を防ぐため、放射線被曝や低線量被曝について、医学教育と医療者への再教育(研修)が必要である。
d. 健診業者や私的医療機関の経済的利益を優先させない。







by kazu1206k | 2025-10-06 23:48 | 脱原発 | Comments(0)