「覚悟はできてるなんて偉そうなことはいわないで」吉永小百合の映画「母(かあ)べえ」
2008年 01月 26日
二人とも涙が止まらなかった。
「母(かあ)べえ」は、昭和15(1940)年から日米開戦(1941年)前後の激動の時代の東京を舞台に、二人の子どもとつましくも幸せに暮らす家族、父親の治安維持法による検挙という治安弾圧のなかで、懸命に生き抜いた母と家族の物語だ。
過酷な時代に生きた人々の労苦、人の世のはかなさ、家族の素晴らしさ、人間の尊厳、そして、この時代へ再び足を踏み入れつつあるという現在への問い…。
吉永小百合は優しさとたくましさを兼ね備えた「昭和の母」を演じきった。
昭和という時代を問う感動作となった。
赤紙を受けとり「山ちゃん」が母べえに別れを告げるシーン。
死ぬ覚悟を告げる「山ちゃん」に母べえが泣いてすがりつく。
その時の言葉が心に残る。
「覚悟はできてるなんて偉そうなことはいわないで」
ラストの母べえ臨終のシーン。
「昭和の母」は、未だに救われない。
自衛隊の海外派兵恒久法の制定が俎上にのぼり、憲法9条改憲の動きが進むなか、時代状況が閉塞感を強めている現代に警鐘を鳴らす。
あふれる涙とともに、甚大な犠牲者を出しながら、再びの戦争への道を押しとどめることができていない現在の己の非力さを痛感した。