12月27日、前日、業務上過失致死傷罪の法定刑として最大の禁錮5年が求刑された、東電福島原発事故で強制起訴された元東電幹部3被告の第36回公判は、被害者参加人である事故被害者遺族の代理人として、福島原発告訴団・福島原発刑事訴訟支援団の弁護団である、海渡雄一弁護士、甫守一樹弁護士、大河陽子弁護士の3人が意見陳述をしました。
被害者遺族の代理人は、「被害者は、福島第一原発事故が起きたために、双葉病院から避難せざるを得なくなり、約10時間もの長時間にわたって、水分も栄養分も摂取できず、寝返りさえ打てずに、ずっと同じ姿勢で、排せつのケアもされることなく、ただバスに乗せられたまま、避難を続けた。しかも、原発の爆発が何度も起き、放射線量が平常時の数十倍から数千倍もの高く、汚染が極めてひどい状況だった。そして、極度の脱水、極度の栄養失調に陥り、体重で圧迫されている部位は痛み、排泄のケアもされず、バス車内の臭いにも耐えなければならない。ようやくバスから降ろしてもらっても、医療設備もなく、暖房設備もなく、寝具すらない、入院患者がおよそ滞在できる環境ではない悲惨な環境に置かれた。
被害者は,こうした極めて過酷な避難によって体力を奪われた末に、命までも奪われた。
このようにして被害者の命を奪った原発事故を引き起こした被告人らの責任は、極めて重大である。」と、被害者の被害の原点から説起しました。
その上で、「推本の長期評価を取り入れて対策することは平成20年2月の御前会議で方向性が合意され、3月の常務会で決定されたこと」「津波対策先送りは武藤の単独判断ではありえない」など、これまでの証言と社内資料やメールなどの証拠をひきながら詳細に経緯を解き明かし、被告人ら3名の刑事責任を明らかにしました。
そして、「原発事故を引き起こした者の責任が明らかにされなければ、命を奪われた被害者の無念は晴れない」として、この思いを裁判所はしっかりと受けとめて、指定弁護士の求刑通り、厳正な判決を求めました。
意見陳述は、以下の項目でした。
第1 双葉病院などの避難は放射能によって阻まれた
1 福島第一原発事故前の平穏な生活
2 福島第一原発事故の発生,避難指示
3 第1陣避難
4 自衛隊が双葉病院へ向けて出発,原発爆発
5 半径20km圏の避難指示
6 自衛隊は丸一日以上待機
7 輸送支援隊の再度の出発,双葉病院に到着
8 第2陣避難,被害者もバスに
9 原発2度目の爆発,受け入れ先がない,高い放射線量
10 いわき光洋高校に到着,被害者の死
11 小括
第2 過去の事故の教訓が生かされなかった
1 チェルノブイリ原発事故
2 柏崎刈羽原発の被害
3 小括
第3 当時の国の方針と科学的知見からすれば福島沖に大きな津波を想定すべきで あった
1 科学的な根拠のある予測に対しては謙虚になるべき
2 神様はチャンスを与えた
3 土木学会の津波評価技術
4 長期評価について
第4 地震津波対策に関わるバックチェックには3年の期限があった。それが守られていれば津波対策実施は行われていたはず
1 スマトラ島沖大地震・津波と保安院による検討要請
2 保安院からの検討要請
3 溢水勉強会における審議経過
4 津波を含む耐震バックチェックの開始
5 保安院はバックチェックにおける厳しい津波対応を求めていた
6 保安院の耐震バックチェックスケジュールの遅れがなければ津波対策は完了できた
第5 土木調査グループの津波検討は遅れて始まった
1 中越沖地震の発生と柏崎・刈羽全機停止の持っていた意味
2 「中越沖地震対応打合せ」が開催されるようになる
3 「中越沖地震対応会議」=「御前会議」の開催とその意味
4 東電福島津波対策はいつ始まったのか
5 酒井氏の振り返り説明
6 高尾氏の津波対策開始時の説明
7 平成19年11月1日東電土木グループと東電設計間の打ち合わせ
8 平成19年11月19日東電設計文書の作成過程
9 東電設計の概略計算結果
10 平成19年12月11日太平洋岸4社の推本(三陸沖~房総沖)津波に関する打ち合わせ
第6 2008年1月の推本の長期評価を取り入れた津波計算の依頼は会社としての意思決定であったこと
1 東電から東電設計に対する津波評価委託
2 平成20年1月23日酒井メール
3 平成20年2月1日福島第1・第2耐震バックチェック説明会が開催される
4 平成20年2月4日酒井メール
第7 推本の長期評価を取り入れて対策することは平成20年2月の御前会議で方向性が合意され,3月の常務会で決定された(山下調書は信用できる)
1 会社幹部の取調供述は会社の強力なコントロールにあったはずであり,その ような状況で明確に経過を認めた山下氏の供述には高い信用性を認めるべきである
2 山下調書は客観的な証拠と符合し,信用性が高い
3 平成20年2月1日,1F現地 耐震バックチェック説明会
4 1F2Fの幹部に対する説明について,武藤副本部長に対して事前に説明さ れている
5 武藤被告人は,4m盤上でポンプ建屋を囲う対策を示唆していた
6 平成20年2月16日御前会議で津波対策は議論された
7 2月16日の御前会議で合意されたこと
8 御前会議の決定を受けた対策の具体化
9 今村氏の示唆
10 武黒被告人から,福島バックチェックについて,常務会に上げるよう指示
11 2.16御前会議で津波対策が議論されたことを示す数々の傍証
12 3月11日常務会での合意
13 3月18日東電設計から計算結果が納入される
14 3月20日の御前会議について
15 3月20日に津波対策が話し合われたことの動かぬ証拠の酒井メールと酒井証言
16 御前会議の議事メモからは,津波のことは除かれるのが原則化していた
17 QAの充実化
18 29日の御前会議は議事メモ自体が残されていない.
19 福島県に対するバックチェック中間報告の説明
第8 2008年3月の津波計算結果は社会的に公表すべきであった
1 10m盤を超える津波についての検討の開始10m盤に防潮壁を設置した計算の納入
2 10mの防潮壁は東電設計の津波対策案の提案である
3 津波高さの低減と対策の検討.
4 役員は15.7mの津波高さの報告をいつ受けたのか
5 6月10日の武藤第一次会議は,津波対策を決めるための場であった
6 6月10日の経緯についての山下調書の内容
7 6月10日についての酒井の証言
8 津波高さ計算結果を公表していれば,津波対策を早期に講ずることとなった はずである
第9 津波対策先送りは武藤の単独判断ではありえない
1 7月21日の御前会議
2 7月23日の太平洋岸4社連絡会
3 7月31日の会議の準備経過
4 7月31日の経過についての高尾氏の証言
5 7月31日の経過についての金戸氏の証言
6 7月31日の経過についての酒井氏の証言
7 山下調書の説明する方針転換の過程
8 山下調書と高尾,金戸,酒井証言の相違点
9 あまりにも手回しが良すぎる酒井7.31メール
10 7月31日以外の多様な話し合いの場の可能性を示唆する吉田調書
11 津波対策先送り後の方針の無理を自白している四社情報連絡会会議録
12 新方針が住民・国民の納得を得られないものであることを悩む高尾氏,こ れをなだめる酒井氏
13 酒井氏は高尾氏が公益通報することを恐れて情報をコントロールしていた
14 東電の隠蔽体質は極めて根深いものがあることを前提に証拠を読むべきだ
第10 2008年8月に震源を延宝房総沖にしても津波高が13.6mと分かっ た段階で直ちに津波対策に取り掛かるべきであった(津波対策を先送りにすること は許されなかった)
1 8月 延宝房総沖波源の計算
2 土木学会への検討依頼は時間稼ぎだったかもしれない
3 延宝房総沖で計算しても13.6メートル
4 13.6mまでしか津波高さを低減できないことは直ちに被告人らを含む幹 部の間で共有されたはず
5 9月2日の常務会と7日の御前会議について
6 9月10日福島現地での耐震バックチェック説明
7 9月30日の常務会
8 阿部先生と高橋先生の異論
9 貞観の津波についてもバックチェックに取り入れないこととする
10 バックチェックの延期は津波対策の完了ができていないことを隠すための 方策であった
11 平成21年2月11日御前会議における議論について
12 武藤被告人が津波を心配していたとする平成21年3月9日酒井メール
13 吉田部長らによる武黒被告人への説明
14 平成21年6月24日の酒井氏から武藤,武黒に対するメール
15 株主総会手持ち資料に敷地レベルを超える津波の危険性が明記されていた
16 バックチェック審査で貞観の津波が取り上げられる
17 平成21年9月6日御前会議
18 貞観の津波に関する保安院対応と平成21年9月24日 酒井メール
19 津波対策ができていない事実の露見をひた隠しにしていた東電と被告人達
第11 東海第二原発の経緯は福島でも対策が可能であり事故の結果が防げたことを裏付けている
1 津波対策の検討
2 東電の方針変更には納得していない
3 多重の津波対策工事の完了
4 工事期間はごく短期間
5 対外的対応と社内での対応が異なる
6 小括
第12 本件原発が30m盤を20m掘り下げたところにあり津波に特に脆弱な敷地となっているこ
第13 敷地前面に防潮堤はつくることができたし,大震災までに完成できた
1 防潮堤はどこに作ることとなったか
2 防潮堤は実際に作ることができたか
3 防潮堤建設は地震と津波に間に合ったのか?4年は沖合防波堤工事の場合
4 防潮堤建設は地震と津波に間に合ったのか?東海第二は約一年で工事完了
第14 機器の対策は当時の他の原発を見てもあり得たし,現実に実行可能であっ た .
1 防潮堤以外の対策でも本件事故は回避できた
2 溢水勉強会での国のお膳立て
3 防潮堤以外の対策は実際に考えられていた
4 日本原電は長期評価に基づく津波対策を進めていた
5 なかなか進まなかった福島地点津波対策ワーキング
第15 津波計算結果を公表すれば地域住民や福島県は原発の停止を求めたはずで原発を停止することは架空のものではなく,このような事態を「停止リスク」として危惧していた証拠はたくさん残っている
1 津波対策を行わないことが原子炉停止につながるリスクがあることは何度も 話し合われていた
2 安全上の理由で原発を止めることは普通のことである
3 上津原証人も津波対策ができていないことが明らかになれば,原子炉を停止 させていたはずと供述している
4 定期検査後の再稼働は自治体同意が原則であった
5 平成23年2-3月にも,原子炉を停止する機会はあった
第16 被害者の心情と意見
1 危険を認識しながら対策を講じなかった被告人達
2 各被告人毎の責任を基礎付ける事実
3 御前会議の議事メモには情報隠蔽の疑いがある
4 裁判所は被害者と遺族の無念の思いに応えて欲しい
いよいよ、来年3月12・13日には、被告人の弁護人による最終弁論を経て結審となります。
最終局面を迎えた東電刑事裁判。わたしたちは、東京地裁が厳正な判決を行うことを求めて、最後まで気をぬくことなく活動を進めます。3月の結審に向けて、厳正な判決を求める署名活動を行なっています。ぜひ、ご協力をお願い致します。
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